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中世の石部

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第一章　鎌倉・南北時代の石部

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第二節　南北時代の争乱と石部

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南北朝の争乱の展開

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　争乱の始まり　建長二年（1250）六角泰綱の次男が執権北条時賴の邸で元服し、賴綱を名乗った。このころの朝幕関係は安定していたが、文永十一年（1274）からの二度にわたる元の襲来を契機に関東では北条得宗家（北条氏の嫡流の当主の家）に権力が集中し、御家人の不満が募りはじめた。幕府は皇位継承にも関与し、後嵯峨上皇没後に持明院統と大覚寺統に分かれて対立する天皇家は幕府の介入を阻止しえなかった。このような中で文保二年（1318）、大覚寺統の後醍醐天皇が即位すると、天皇親政政治を理想に掲げ幕府討伐を企てるに至った。
　最初の倒幕計画は未然に発覚し失敗に終わったが（正中の変）、後醍醐天皇はこれに屈せず、山門や商工業者、楠木正成らの武士を味方として、元弘元年（1331）再度倒幕を図ったもののこれも発覚し、後醍醐天皇は隠岐に流された。しかし後醍醐天皇の発した幕府打倒の号令は諸国武士を動かし、同三年五月、足利尊氏が六波羅探題を、新田義貞が鎌倉を落として幕府を倒し、翌六月後醍醐天皇は京都に戻って政権を掌握した。
　建武の新政と呼ばれる、延喜の治世を一つの理想をするこの公家中心の政策は、当時の社会の実状にあわず、とりわけ諸国武士のかかえた課題を解消するにいたらなかった。これを非として足利尊氏が後醍醐天皇に反旗を翻し、室町幕府を開いて南北朝の争乱の幕が明けられた。争乱は南朝（後醍醐方）と北朝（幕府方）の対立に加えて、幕府内部の抗争もあって混迷し、半世紀に及ぶ全国規模の内乱となった。
　建武三年（1336）正月、尊氏は関東から京都に攻め上ったが新田義貞らに敗れて西に下った。九州で体勢をたてなおした尊氏は、同年四月博多を出発、西国武士を自軍に付けながら東上し、持明院統の光厳上皇の院宣を得て勢いを付け、五月、兵庫湊川（兵庫県神戸市）で楠木正成を倒し、六月には光厳上皇を擁して京都に入った。十月には後醍醐天皇との和議が成立し、翌月後醍醐天皇から光明天皇（光厳上皇弟）に神器が譲られ、尊氏は建武式目を制定して室町幕府の体制を整えた。
　しかし翌月十二月、後醍醐天皇は京都をひそかに脱出して吉野へ逃れ、南朝と北朝の分裂が始まった。後醍醐天皇は各地に皇子や近臣を派遣するとともに、自らは大和・和泉・紀伊・伊賀方面の修験者・供御人・商人・水軍・悪党らを味方に付けて退勢の挽回を図った。しかし二年後の延元三年にはそれぞれ畿内・北陸の主力であった北畠顕家・新田義貞が戦死し、翌四年には後醍醐天皇も吉野で十二歳の村上天皇に譲位したのち死去した。以後、京畿の戦闘はしばらく途絶え、正平二年（1347）から河内・摂津国方面で楠木正成の子正行が幕府軍を悩ませる存在となったものの、翌三年正月、四条畷（大坂府四条畷市）の合戦で戦死、吉野にも危険が迫り、後村上天皇は行宮を紀伊国境近くの賀名生（奈良県西吉野村）に移さざるをえなくなった。

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　幕府方の内紛　ここに南朝方の劣勢は決定的となったが、このころから尊氏の弟直義と執事高師直の対立が表面化する。室町幕府はその成立当初から尊氏が武家の棟梁として諸国武士を指揮し、直義が国政の実務を担当する二頭政治を行っていた。この尊氏の軍事指揮権は侍所長官高師直の兄弟が代行する体制がこのころには整えられていた。高兄弟は戦時の勲功を重視したので、彼らの下に既得権を持たない庶子家や非御家人らの新興勢力層が結集した。一方、平時の法令や制度を尊重する直義の下には鎌倉幕府以来の御家人や惣領が集り、権門寺社も彼を支持した。こうして諸国武士のかかえた利害関係の矛盾が、直義派・師直派の対立という形をとって先鋭化したのである。近江国守護佐々木氏の惣領家六角氏賴が直義派に、庶子家京極高氏（道誉）が師直派に分かれたのはその典型である。
　以上の背景から両派の対立は避けられない状態となり、貞和五年（1349）八月、師直の強訴による直義の失脚を契機に、観応の擾乱と呼ばれる幕府の内紛が開始する。前半はすきをみて直義が高兄弟の殺害に成功し、後半は尊氏・直義兄弟の対立から、文和元年（1352）尊氏による直義の殺害という経緯で乱は展開するが、この間両派は戦略上度々南朝に帰順したため、南朝方は一時勢力をたてなおし、正平十六年（1361）まで前後四回に渡って京都を奪取した。
　しかし尊氏から嫡子の義詮に将軍職が移るころから両派の対立は下火となり、南朝も正平十六年を最後に京都を脅かす所存ではなくなった。にもかかわらず、争乱が以後三十余年継続するのは幕府が台頭する守護勢力を統制できず、しばらくは幕府内部で有力守護を中心とした主導権争いが繰り広げられたためである。二代将軍義詮が短命で世を去り、ついで将軍職を継いだのが十歳の少年義満であったことがそれに拍車をかけたが、それも義光が成年に達すると実力を発揮しはじめ、明徳から応永年間に、土岐・山名・大内といった有力守護を次々に打倒して幕府権力の安定化を導いた。そして明徳三年（1392）南朝の後亀山天皇と和議が成立し、争乱が終息を迎えたのである。

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　近江国内の諸勢力　南北朝の争乱は一面において首都争奪戦を呈したが、京都は地理的条件から防衛には不向きであり、その初期において後醍醐天皇方は作戦上しばしば比叡山に登った。これに対し足利尊氏は京都側からと大津側から比叡山を挟撃する作戦をとったため、近江国は両勢力が衝突する主戦場となった。とりわけ東海・東山道の集中する野路（草津市）や比叡山の麓で水利栗交通の要衝である坂本・大津・瀬多方面で激戦が繰り広げられた。また京都を追われて吉野に入ってからの南朝勢力は、伊勢・伊賀をぬけて甲賀郡の油日（甲賀町）・杣（水口町）・信楽（信楽町）を近江国内の拠点としてしばしばゲリラ戦を展開した。
　乱の初期においては治承・寿永の内乱期と同様、山門・寺門・近江源氏が独自の行動を示した。当初山門が後醍醐方に従い鎌倉幕府、ついで尊氏方と対立したのに対し、寺門は源氏の守護神新羅明神をめぐる因縁から尊氏方に与した。また近江源氏佐々木氏の場合、京極氏が鎌倉幕府打倒のため尊氏が兵を挙げた当初からその主勢力であったのに対して、惣領家六角氏は争乱期の対応に苦慮した様子がうかがえる。鎌倉幕府滅亡までは守護の立場から六波羅探題にしたがい、室町幕府成立直後は雌伏の時を過ごし、近江国守護に復権して後も観応の擾乱に際して一時直義方に従っている。
　ここにみられる両者の姿勢の相違は京極氏が近江一国を超えて中央政権に野心を抱いたのに対し、六角氏が守護家の伝統と鎌倉期後半から展開した領国経営の姿勢から近江国内の情勢を重視する立場をとったところから生じたと考えられる。したがって近江国からこの争乱を見るには、六角氏の対応に注目するのもひとつの方法である。その場合、賴綱の孫時信が北条氏に従って後醍醐方に敵対し鎌倉幕府滅亡直前に降服するまでを第一期、建武政権誕生から暦応元年（1338）時信の子氏賴が近江国守護に復権するまでを第二期、観応の擾乱で観応二年（1351）に氏賴が守護職を引退するまでを第三期、文和三年（1354）氏賴が再び守護職に補任されるまでを第四期、それ以後を第五期と考えることもできよう。このうち近江国内で戦闘が集中するのは第二期と第四期であり、いずれも近江国守護としての六角氏の地位が空白かあるいは不安定な時期に相当している。

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　京極氏の動向　南北町争乱期の京極氏の当主は高氏（導誉）であった。
　氏信の没後、四男宗綱が家督を継いだものの子息が相次いで死亡したため、宗綱の兄満信の孫である高氏が少年期に当主となった。成年にいたり鎌倉幕府評定衆うに加わり、徳宗家との関係を深め北条高時の出家に行動をともにし、剃髪して導誉と称した他方朝廷からも検非違使を拝命している。元弘の変では幕府方について、後醍醐天皇の隠岐配流の道中警備にあたったり、乱の首謀者のひとりである北畠具行を柏原（山東町）で斬首している。しかしその翌年、尊氏が倒幕軍を編成して京都をめざすとそれに従い、建武政権下では雑訴決断所奉行人を勤めた。尊氏が後醍醐天皇から離脱して関東に下ると一時京都方についたものの、尊氏が自ら兵を指揮して関東を出ると再びその傘下に入り、以後室町幕府の重鎮として政所執事・評定衆・引付頭人といった幕府中枢の職務や若狭・近江・出雲・上総・飛騨の守護を歴任した。導誉は京極氏で最初に守護に補任された人物であり、京極氏が三管領四職といわれる幕府の重職の一郭を占める道を開いた。
　導誉波時の情勢を読み取る能力にたけ、変わり身の早い人物と評価されているが、尊氏が自ら行動を起こすときには従っているところを見ると彼に京極氏の命運をかけたという見方もできよう。近江国内では佐々木氏庶流の立場に甘んじなければならなかった京極氏にとって、この動乱期は躍進の絶好の機会であったのである。足利氏の側近的な性格は導誉以後も受け継がれ、延文三年（1358）足利義詮への将軍宣下の時、導誉の孫秀詮が宣旨の受取役を勤めている。こうした姿勢から尊氏に重用され政権の中枢に位置するに至ったが、そのため逆に近江一国に集中できず、幕府からしばしば国内の統轄を委ねられたものの結局は六角氏にその役割を譲らねばならなかったのである。近江国内においては鎌倉期と同様守護家六角氏を牽制する立場にまわり、幕府から山東・北陸道の要衝を押さえる所領を与えられた。
　鎌倉期以来、佐々木氏と山門との関係には微妙なものがあったことは前節で述べたとおりであるが、佐々木定綱のときに起こった山門事件を同様の事件を導誉が起こしている。歴応三年（1340）、京都白川の天台系門跡寺院妙法院の坊官と導誉の家来とのいさかいから妙法院を導誉方が放火する事件が生じ、山門の抗議によって導誉父子は官位を解かれ出羽・陸奥への配流が決定した。配流先へ赴く道中の導誉の行粧は人々の耳目を驚かせ、「ばさら大名」としての名を高からしめた。結局この処分はうやむやのうちに終り、翌年八月伊勢方面で南朝方の活動が活発化すると導誉は幕府軍に加わって出動している。佐々木定綱の子定重が斬首されたことを考えると、この一世紀余りのうちに山門と武士勢力との関係に大きな変化があったことが知られよう。

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　六角氏の動向　延慶三年（1310）、五歳の少年が近江国守護の当主となった。六角時信である。京極高氏と同様本来ならば家督を継ぐはずの伯父や父が病没などのため、賴綱の三男盛綱の子時信が賴綱の猶子となったのである。
　二十代半ばで元弘の変を迎えた時信は六波羅探題の命令を受けて出陣し、唐崎の浜（大津市）で山門勢力と衝突し敗れている。その後本国を離れて後醍醐方との合戦を重ね、六波羅探題陥落の後関東に向かう北条仲時に従って近江国に入り、最後は討手のひとり京極導誉をたよって降伏した。ちなみに尊氏は仲時を番場の宿（米原町）で滅ぼして間もなく、元弘三年（1333）五月二十三日付の制札を長寿寺に出しぶしによる乱暴狼藉を防いでいる。建武政権下、時信は導誉とともに雑訴決断所の奉行人に任命されるが、尊氏の離反により建武政権が崩壊すると、時信も歴史の舞台から姿を消す。
　建武二年（1335）北条時行を討つために鎌倉に下った尊氏は、十二月後醍醐天皇に反旗を翻して箱根・竹下で新田義貞野軍を破って京都へめざし、後醍醐方が伊岐代宮（草津市）・瀬田・宇治方面に敷いた防衛線を突破して京都に迫った。そのため後醍醐天皇は翌年正月京都を捨てて坂本へ入った。陸奥から駆けつけた北畠顕家が尊氏方に味方する六角氏の観音寺城（安土町）を落として坂本に合流すると、退勢を挽回した後醍醐方は尊氏方の園城寺（三井寺）を攻め、その余勢をかって京都を攻略し丹波方面に追った。
　九州で態勢をたてなおした尊氏軍が四月九州を出陣し、翌月、摂津国湊川で新田義貞・楠木正成の敷く防衛線を突破して再び京都をうかがうと、後醍醐天皇もまた比叡山に登った。尊氏は京都の入ったのち六月山門攻めを敢行するが、逆に後醍醐軍から京都を脅かされるなど効を奏さなかった。この時期近江方面の軍事指揮権を与えられていたのが導誉である。山門勢力がさかんな限り近江国を制圧できないと判断した尊氏は、七月に至って比叡山への補給路を絶つ作戦にでた。まず小笠原貞宗を瀬田方面に待機させて山門勢力を牽制し、ついで導誉に貞宗の応援を命じた。導誉は京都から若狭国を経由して湖東を制圧した。こうして補給路を絶たれた後醍醐方は次第に不利となり、ついに十月後醍醐天皇は降伏して比叡山を降り神器を光明天皇に譲った。翌十一月尊氏は幕府を開設して混乱が収まったかに思われたが、十二月、後醍醐天皇が密かに京都を脱出し吉野に入ってから南北朝の分裂が始まった。なおこの年十二月から短期間ではあるが導誉は若狭国守護に補任されている。
　この間甲賀郡では後醍醐方（以後南朝方と記す）の頓宮弥九郎が五辻宮を奉じて信楽に城を築き、尊氏方は小佐治某氏が油日嵩龍山寺城を拠点とした。南朝方の動きは後醍醐天皇が吉野に入ったことにより活発化し、翌建武四年（1337）信楽で兵を挙げた。これを鎮圧すべく小佐治は幕府軍と合流して信楽に入り、付近を焼き払った。翌年二月関東から北畠顕家が伊賀・伊勢方面に侵攻する動きをみせたので小佐治・山中道俊らが鈴鹿関をふさいでこれに備え、あわせて鈴鹿山麓の鮎川城に拠る頓宮弥九郎を攻撃した。三月には南朝軍が野川・龍法寺・杣中に転戦したので、導誉の指揮下小佐治・山中は広徳寺でこれと戦闘を繰り広げた。そして四月山中・柏木らが頓宮弥九郎を伊勢方面に落としてこの地域の戦闘は一段落した。また戦局全体を見渡しても、この年の五月と七月に新田義貞と北畠顕家が相次いで戦死したことにより南朝軍の不利は明らかになった。
　一連の戦闘における論功行賞のためであろうか、四月に導誉が近江国守護に任ぜられている。しかし導誉がこの地位にいたのは数ヶ月のことで、顕には時信の子氏賴が近江国守護に補任された。短期間でその地位が京極から六角に戻されたのである。守護に就任してからの近江国内は比較的安定した状態が続いたので、氏賴は高師直の指揮の下、主として畿内の南朝軍との合戦に参加し、貞和三年（1347）藤井寺・住吉・四条畷（大坂府下）方面における楠木正行との合戦に際しては、伊庭・平井などの近江国内の家臣を率いて従軍している。
　観応元年（1350）十月、足利直義が京都を脱出し、翌月南朝に投降して河内国で挙兵した。以後、文和元年（1352）まで幕府方は尊氏党と直義党に分裂して相争い、これに南朝方がからむことによって複雑な情勢が展開する。
　甲賀郡の南朝勢力は直義党と結んで活動を展開させた。観応元年十一月、直義の命を受けて甲賀郡に入った上野直勝つは儀俄・高山・大原らと語らって、油日の善応寺（甲賀郡）を振り出しに東海道を進撃、近江守護氏賴の弟山内信詮を三上山・野洲河原で撃破し、瀬多橋を防御戦とした守護代伊庭をも破って京都をうかがう勢いを見せた。これに対し幕府の命を受けた氏賴は、本拠地佐々木荘に帰って軍勢を整え、十二月十日守山で直勝軍をくい止めた。このころまで、氏賴は先の摂津・河内方面の戦闘で高師直に属した関係から、尊氏・師直方の武将をして活動している。
　しかし近江方面で激戦が展開している間に直義は洛南の八幡を占拠して京都を挟撃するかまえを見せた。このため尊氏側の劣勢が決定的となり、翌年正月中旬、尊氏・師直らは丹波をめざして京都を落ちていった。主を失った氏賴はやむなく本領安堵を条件に直義に降伏した。ちなみに京極導誉はこのときも尊氏に従っている。
　尊氏・直義兄弟の争いは、二月の高兄弟の死と引き換えに収束したかにみえたが、同年夏には早くも両者の不和が再燃しはじめた。その対応に苦慮した氏賴は、六月家督を二歳の千手丸に譲って突然の出家を遂げ、高野山に隠棲した。六角氏の家督は再び幼児の手に委ねられたのである。他方京極氏の当主導誉は尊氏が他の勢力回復に目覚しい働きを見せている。七月下旬、尊氏は近江で反旗を翻した。導誉を討伐すると称して京都を出、石山（大津市）に陣を敷いた。先に別の口実であることは明らかである。身の危険を感じた直義は越前に逃亡し、ここで陣容を整えて近江に進出、これを追って八月、尊氏軍も近江に入り、再び近江国内が戦場となるのは必至となった。そのため近江国内の忠義党は九月に入って、観音城・八相山（東浅井郡虎姫町）・蒲生野と転戦し、特に蒲生野の戦いでは京極導誉と山内定詮が衝突し、定詮が導誉をその本拠地甲良荘まで追い落としている。その後十月には興福寺を進発、翌年二月に鎌倉で直義を殺害して兄弟間の対立に決着をつけた。ところが翌閏二月と和談し、十一月に京都を南朝軍に襲われたため、義詮は導誉を頼って近江国に逃れ、三月中旬には南朝軍を京都から追い払った。しかし観応の擾乱を通して生じた幕府方の分裂は深刻で、一時的にではあれ、今回を含めて前後四回にわたって南朝軍に京都を奪われる事態が発生する。
　幕府方はこのような南朝軍の侵攻に対処するため、文和元年七月六角・土岐などの守護に応援を求め、兵糧米確保のため彼らの守護国である近江・美濃・尾張の寺社本所領・国衙領の年貢の半分をそれに充てることを法令で公認した。この半済令は翌八月には伊勢・志摩・伊賀・河内・和泉の畿内近国も適用されるに至り、守護権力の強大化をもたらした。また近江国内の武士勢力を幕府方にまとめる方策として、前年の十二月に京極導誉に佐々木一族の統轄を命じたものの効を奏せず、、改めて翌年七月、半済令施行とあわせて六角千手丸を守護に再任し、二年後には千手丸の父氏賴を還俗させて守護に復帰させることによって近江国内の安定化を図ったのである。六角氏も半済地を給地として与えることで国内の国人・土豪を被官化していき、その領国経営を進化させている。